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ナスを選ぶための基準|科学的に分析した論文を紹介

おもしろい論文

「これはおもしろい」と思ったので紹介します。

堀江秀樹氏の調理を考慮したナスの品種特性(2014)です。ナスの品種ごとに食感や味の違いを調べた論文で、一般的な千両二号から水ナスの泉州水茄子、イタリアン品種まで幅広く調査されています。私が一番面白いと思ったのはこの分析にめちゃくちゃ高い機材を使用している点です。うま味成分を分析するためにHPLCを持ちています。さらに皮の硬さを評価するための機械を使用するなど徹底的に調べようとするスタンスがワクワクしました。

左から筑陽:丸茄子:長ナス

論文

ナスの呈味成分である遊離糖、遊離アミノ酸、苦み成分であるクロロゲン酸の定量、物理的特性である多汁性、果皮や果肉の硬さ、果実の密度、とろみの指標である粘性を分析することを目的としています。

実験

供試品種:泉州水茄子(大阪で有名な水茄子)、巾着茄子(新潟)、筑陽(一般的)、民田茄子(山形の小茄子)、ローザビアンカ(イタリアン品種)、庄屋大長(長ナス)、千両二号(一般的)、くろわし(米ナス)

調べる項目:クロロゲン酸・グアニル酸、遊離糖、遊離アミノ酸。果皮の硬さ、果肉の硬さ、果汁指数、果実の密度、粘度の測定、蒸し加熱および浅漬けの特性。(多いため一部抜粋して述べる)

結果

クロロゲン酸

クロロゲン酸は渋み成分であり、ナスの切り口を褐変させ、小茄子や米ナスに多く、水茄子と長ナスには少ない特徴を持っています。今回の実験でも同様に民田茄子、くろわしに多く、泉州水茄子や大屋庄長では少なかったです。

遊離糖

ほとんどのナスがブドウ糖が主に含まれており、単糖が次いで含まれていました。人が感じる甘さは単糖>ブドウ糖です。泉州水茄子のみ単糖が主に含まれており、水茄子が他のナスよりも甘味が強いということは示唆されました。

物理的特性

泉州水茄子と民田茄子が密度が高く、長ナスは密度が低かい結果になりました。また多汁性は泉州水茄子が最も高く、一般的な品種である筑陽と比較したときに2.5倍以上の果汁があると示されました。果汁指数が低い品種に巾着茄子、ローザビアンカ、くろわしが挙げられましたが、この3品種は熱を加えたとき粘性が他の品種と比較してとても高い結果になりました。

グアニル酸

グアニル酸はうま味成分として知られるグルタミン酸と相乗作用を示し、うま味を増大させます。グアニル酸は加熱ともに増加しますが加熱しすぎるとグアノシンという別の物質に変化し、相乗作用を発揮しなくなります。

70℃、80℃、90℃に設定し各ナスを加熱処理すると80℃、20分加熱でグアニル酸が最大で、70℃で最小でした。また、急激な温度上昇を避けるためにナスを大きめにカットした方がグアニル酸の量が増加しました。

考察

それぞれ化学的特徴、物理的特徴に違いがある。特にうま味成分が少ない品種は凝縮できるような調理方法を選択し、果皮が柔らかい品種は浅漬けに適している。品種の特徴を明らかにすることで調理法や食べ方に活用でき、豊かな食文化の創造へつながる。

感想

が育ている筑陽は本当に一般的な品種だと痛感しました。すべてにおいて平均値で尖った箇所が一つもないような品種です。大衆向けに作られる品種は万人に受け入れられる必要があり、そのためには特徴がない、扱いやすい品種が選ばれます。筑陽ではいくら丁寧に作っても今以上の価値を示せないことがこの分析でわかりました。

に泉州水茄子は高級品種の一つで、高いものは3個で¥10,000以上します。今回の品種で唯一遊離糖の中で甘味が強い単糖が主に含まれる品種でした。さらに果汁指数が異様に高かったです。強い特徴があるため、その価値を感じる人もいれば感じない人もいます。大衆向けではないですが、その価値を認めた人にとっては唯一無二のほしい品種に変わります。

 

学的に分析した結果をみると同じナスでもそれぞれ特徴があり、調理方法も変化してきます。特徴を理解することが「旨い料理」につながります。なかでも調理温度によってグアニル酸の量が変化しうま味の相乗効果が発揮するか否かが変化します。80℃がもっともグアニル酸が多くなり、蒸し野菜がおいしい理由も納得です。フライパンでは熱すぎるかもしれもしれません。温度計を用いて丁寧に管理すると「旨い料理」への近道かもしれません。

 

——–参考文献——-

堀江秀樹 安藤聡 2014:調理を考慮したナスの品種特性評価,野菜茶業研究所研究報告 13号