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青枯れ病の病原菌について|なぜ接ぎ木苗を使うのか?

接ぎ木苗

接ぎ木苗とは栽培用のナス苗と病気に抵抗性を示す台木をくっつけた苗のこと。詳しくはYouTubeで→接ぎ木苗について

接ぎ木苗を使用しても青枯れ病は発生します。それは病原菌の系統が幅広く、台木がすべての病原菌に対して抵抗性を持っていないからです。それが分かる論文を今日は紹介します。

今回の論文

尾崎克己氏、木村俊彦氏の病原性に基づくナス科野菜青枯病細菌の類別(1992)です。

試験方法

栽培ナス:千両2号、台湾長。台木:ヒラナス、トルバム・ビガー、ツノナス

下図の上部が栽培ナスで下部が台木です

青枯れ病原菌​を149菌株を供試して、一定期間栽培した接ぎ木苗に病原菌を接種して発病度合いを計測しました。

結果1

抵抗性:発病しない ・ 感受性:発病した

特定の4菌株について(簡易的にA,B,C,Dと表記)

A,Bの病原菌株はすべての供試植物が感受性を示しました。Cの病原菌株は栽培ナス(千両2号、台湾長)が感受性を示し、台木は抵抗性を示しました。Dは栽培ナスとヒラナスに感受性が示され、トムバム・ビガーツノナスは抵抗性を示しました。

結果2

千両2号は148/149で感受性を示しました。台木は感受性を示す菌株、抵抗性を示す菌株の2分になりました。感受性を示した菌株は系統が近い菌株でした。

これらの結果から5群に分類できます。

Ⅰ群:千両2号のみを発病させ他の植物は抵抗性を示す

Ⅱ群:千両2号とツノナスのみを発病させる

Ⅲ群:千両2号、ツノナスとヒラナスを発病させる

Ⅳ群:すべての供試植物を発病させる

Ⅴ群:千両2号とツノナス

を発病させる

この5群の割合はⅠ群が45%と最大で、次いでⅣが24%、Ⅲ群が14%、Ⅴ群が8%、Ⅱ群が7%でした。

考察

これらの実験から病原-宿主の関係に明瞭な違いが見いだされ、Ⅰ~Ⅴ群に分類されました。判別に用いるナス科植物を増やす、外国産の病原菌も判別に用いると、この分類はさらに細かくなり分類不可能な病原菌が登場する可能性があります。

1973年に分離した病原菌の6菌株のうち2菌株がヒラナスに感受性を示しました。10年後の80年代では83%まで示すようになり、ヒラナス、トルバム・ビガー台木から高い確率で分離されました。73年にはすでにヒラナスに病原性を示す病原菌が全国に広がっており、連作によって菌密度が上昇し罹病化の主な要因になったと示唆されます。

この論文を受けて

台木は青枯れ病を確実に抑制する手段ではないことが良くわかりました。Ⅰ~Ⅴ群の分類でⅠ群が最も多い事実は理解していましたが、すべてを発病させるⅣ群が約1/4も存在することに驚きました。単純に25%の確率でどの台木を使っても青枯れ病に罹患してしまいます。

私の圃場では1割ほどが青枯れ病で枯れてしまいました。この確率を見れば当然かと思います。連作をすれば4群が増えやすい状況になり、手に負えなくなります。これはナスに限った話ではありません。ナス科植物のトマトやジャガイモも同様です。ナスを栽培した後にトマトやジャガイモを栽培すると同じように青枯れ病が発生します。

手だてはないのでしょうか?一つに以前紹介したカラシナを用いる方法があります。圃場に水を張って嫌気状態にする方法があります。嫌気状態とは酸素がない状態で酸素を必要とする生物は生存できません。簡単に嫌気状態にする方法がありますが、それは次回紹介したいと思います。

 

——-参考文献——-

尾崎克己 木村俊彦(1992):病原性に基づくナス科野菜青枯病細菌の類別​ 中国農業試験場研究報告 10号